本日はぜひ読んでおいて損はない本を紹介しておこう。野村證券の内情を暴露したに近しい、「野村證券第2事業法人部」だ。証券会社の内情をここまで細かく書き、どういう人が出世するかを描いた本はない。
衝撃すぎる野村證券の実状
新人証券マンが、20年間野村證券で活躍し、支店長までつとめます。その後、自身で会社を設立し、オリンパス事件に巻き込まれ逮捕されるまでを描いている。何より衝撃的なのが、野村証券時代の生活だ。最初に述べると、後半はトーンダウンしてしまうのだが、全体の6~7割にあたる野村證券時代の話だけでも十分にお金を出す価値があった。
野村証券出身者がブログや本を書いているが、大抵がすぐ辞めたドロップアウト組だ。本書は取締役クラスではないのものの、20年間素晴らしい成績で活躍した本物の野村マンが書いている。古き良き日本の姿もあった。自慢風の内容や主観ももちろんはいっているがそれを差し引いても十分面白い。
モラルなき野村證券
ネタバレになるのであまりかけないが、一部本の中身を紹介する。現在の証券会社もそうであるように、証券会社の営業は株、債券等の売買手数料で稼いでいる。現在はネット証券会社が普及しており、手数料がかなり少ないので自由に売買できる(それでも現在も野村をはじめとする店頭証券に依存している高齢者は多い)。しかし昔は、証券会社を介して売買をすることが基本であった。
野村証券は、とにかく売買をしてもらうために、無茶な売り買いや、何度も買って、売ってといって手数料をせしめるひどいことや、客先にいって、野村から届く手紙を破棄して損していることがばれないようにする等モラルがなさすぎる行動が容認されていた。
むしろこういったことができないと、すぐに脱落している。大量に入って、大量に退職している様子がわかる。
1人の客(個人客だ)に数億損をさせることも平気で行う。損させておいても手数料が稼げたら、証券の営業マンは出世できるわけだ。
そのほかにも異常とも思える、パワハラや業務内容が書いてあり、フィクションでも書けないと思っていた。筆者が野村のリテールの知人から聞いていたよりひどかった。こんな会社でとてもじゃないが女性は働けないと思った。
筆者は金沢支店に配属され、たくさん株を買わせて、何億も損させておいたお客さんもいたわけだ。そこに挨拶に行ける強心臓は現代の若者にはないだろう。
高くはない年収
野村証券時代の年収を横尾氏は最高2500万円、また、若手時代活躍していて、1000万円と書いている。稼いでもインセンティブがそれほどなく、会社が利益としてもっていたことがわかる。野村證券がトヨタ証券の営業利益を上回ったとあり、いかに低い給料で働かせ、高い売上をあげさせていたかがわかる。
1978年から1998年の時代のため、ブラックマンデーやバブル経済といった時代の流れも感じ取ることができる。
この時期は外資系投資銀行が積極的に進出し始めていた。ご存知の方も多いが、野村證券から外資系に転じた人たちはたくさんいる。外資系投資銀行が出してきたオファーの額は、現在の野村ホールディングスのCEOの年収よりもはるかに高いことがうかがえる。それほど、外資系はお金を積み、とにかく人材をとってこようとしていたことがわかる。
筆者視点では外資系はあまりいい書き方はされていない。成果が出ている人が野村に残り、成果がでていない人が外資系に転じているような雰囲気が伝わる。年収数億円プレイヤーがいた外資系投資銀行は非常にうらやましくもある。
野村証券の人間が実名で書かれている
野村証券の歴代社長や重職についた人たちが、実名で事細かに書かれている。筆者は会社の先輩方に対しても臆することなく、知識不足やセクハラが多い等、単なる内輪話に終わらない書き方をしているのでおもしろい。
学歴が書かれているのでわかりやすいが、野村證券は多様な人材を採用しており、学歴があまり問われていない。もっとも驚いたのが、高卒でも役員級まで登っていたことだ。実績重視でその点は素晴らしい会社だと思った。東大京大、早慶、MARCH、高卒まで多様な人間が活躍していることがわかる。
出世する人はどういう人なのか、上に立つのにふさわしい器はどういうものなのかを感じ取ることができる。
また、多くの人物の転身先として出てくる、野村総研、野村アセットマネジメント、野村不動産、JAFCOといった野村系の企業は野村證券出身者が経営陣となっていると思うと企業イメージがとたんに変わってしまう。野村証券で長く活躍すると、次の場所が保証されるいい会社だが、生き残るのが非常に難しい会社であろうことは間違いないだろう。上記の企業は野村証券で社長になれなかった人の受け皿というわけだ。商社の子会社と違い、それぞれの会社が一流すぎて目がくらむ。
著者は優秀な金融マンである
周りにも読んだ方がいて、「ひどいな野村」などと感想が多かったが、一方で著者である横尾氏の金融マンとしての優秀さが感じ取れる。株、債券について精通している印象を受けた。逆に出世している人間でもろくに理解していなくても、体育会根性で出世をしているようだ。ワラントやCBを活用し、難局を乗り切っていた様子がわかる。
外資系ではありでない(現在の野村でもない)だろうが、株のセールスと債券のセールスをして、ストラクチャリングも兼ねて、部門移動によって投資銀行部門でECMもして、M&Aもしてというめちゃくちゃなキャリアだ。なんでもでき、その場で順応し、誰よりもリスクをとって、素晴らしいソリューションを提示していた。金融本としてもおもしろい。
データベースマーケティングへの興味から退社
野村マンらしくないなと感じ、最も筆者に興味を感じたのが、退社の理由はデータベースマーケティングがやりたかったからと述べている。20年前にデータベースに着目し、うまくデータベースを活用することでより顧客のニーズに応えられると考えていたようだ。
今でいうビッグデータ解析を行おうとしていたという感じか。恐らく現在も証券業界の個人営業ではノウハウやデータが散財しているようなので、もっと野村が早くからデータベースを活用できていれば悪しき習慣も少なくなるのではないかと。
オリンパス事件
オリンパスの財務をにぎっていた山田氏を悪者として描いている。いわゆる財テクによる損失を隠し続けて、あるとき発覚し、問題になった。ばれないようにするスキームに著者の横尾氏が指南したということになっている。オリンパスのくだりは前半に比べてトーンダウンなので読まなくてもいい。
本書の書き方では、山田氏は、ろくでもない人間の書き方をされており事実であればオリンパスを地獄の底に落とした極悪人だろう。ホリエモンが牢屋に入って、山田氏が入らないというのもおかしなものだ(執行猶予付きのため)
本日は書評を書かせていただいた。興味がある方はぜひ購入してみてほしい。
余談だが、本記事を書いているときに、本の内容が本当か気になり、後輩に連絡したら、えげつなさは本当とのことだ。年収も聞いたが仕事の内容のわりに低いと感じる額だった。
また、ネット証券あるから、営業マンいらないのでは?と聞いたら、
「(ネット証券にはない)債券も投信もノルマもあります!」という返しをされてなんとも言えない気持ちになった。
金融業界から転職を考えている方は転職サービスを登録してほしい。証券リテールがつらかったら早いうちに逃げたほうがいいだろう。精神を壊してからでは遅い。
今日は以上だ。